美術大学卒業後、自分の創作と仕事を完全に切り離している人は多いのではないでしょうか?仕事はあくまで生活のためで、それ以外の時間に趣味で自分のつくりたいものをつくる。
人によって生き方や働き方はそれぞれだと思います。ただ、作品制作で培った創造性を心のどこかで仕事に生かしてみたいと思いつつも、それを無理に抑え込んでいるのだとしたらとても勿体無いことです。
近年、美術大学卒業者にとって、追い風とも言えるような流れが出ています。美大生が持つような創造性やそれをビジュアライズする力が、いまビジネスの世界で必要とされてきているのです。
この記事の1ページ目ではそうした「デザイン・アート系人材待望論の動き」について、2ページ目では「では実際にどうすれば創造性を仕事に生かせるのか」について紹介していきます。
人材価値が高まるデザイン・アート系人材
2010年代後半は、ビジネスとデザインが融合していった時代です。その一つの証拠として、コンサルティングファームなどがデザイン会社を買収する動きが見受けられました。
・マッキンゼーによるLUNARの買収
・アクセンチュアによるフィヨルドの買収
・キャピタル・ワン(米国金融大手)によるAdoptive Pathの買収
では彼らがデザイン会社を買収する理由は何なのでしょうか?
取り急ぎコンサルティング会社がどういうビジネスをしているか一言で説明しておくと、彼らはクライアント企業の課題解決をしています。例えば、売り上げが減って困っている企業に対し、「こうすれば売り上げが上がりますよ」と提案します。
コンサルティング会社がデザイン会社を買収する背景には、その「こうすれば」の「こう」に高い解像度をクライアントが求めるようになってきた背景があると言われています。
つまり、それまでは大局的な戦略や方向性、コンセプトを提案していればOKだったのですが、クライアント的には「じゃあそのコンセプトを商品に落とし込むとどうなるの?」という実践レベルの具体的ニーズが出てきたわけです。
コンセプトを実際に形として落とし込むことが求められている時代。だからこそ、デザイン・アート系人材が求められるのです。
また、今はブームがひと段落した感はありますが、IDEOが提唱した「デザイン思考」もこの流れにあると考えられます。デザイン思考がブームになったことが指し示すのは、デザイン(少なくともデザイン的な思考)はもはや専門的なスキルではなく、ビジネスマン全員が持つべきスキルであるということです。
創造性・芸術性・多様性がイノベーションの源泉
イノベーションという言葉は皆さんも聞いたことがあるかと思います。イノベーションとは0から1を作り出すことです。簡単に言えば、世の中にまだないものを生み出すことです。iPhoneがイノベーションだと言われるのは、ボタンをぽちぽち押していた携帯電話から、ボタンを取り除いた全く別物といってもよい製品(もはや携帯電話というよりも携帯のようなパソコン)を生み出したからです。
そうしたイノベーションを、日本は苦手としているとよく言われます。日本は、1を100にする方が得意です。例えば、より燃費のいい自動車をつくることが得意。でも、車そのものを発明することはできませんでした。
成熟した経済でどの会社も成長が頭打ちしている中で、求められているのは0から1を生み出せる人材です。0から1を生み出せるのは、真面目で優秀な人よりも、思いもよらない想像性を発揮する少し変わった人です。
こういった背景があって、アート系人材が求められているわけです。
事実、例えば神戸市では2019年度の職員採用試験から「デザイン・クリエイティブ枠」を新たに設ける動きが出てきています。大学、高専、短大においてデザインや美術、音楽、映像など芸術分野を学んだ人を対象にしています。
『芸術系の職員求む。神戸市が政令市では初めて「デザイン・クリエイティブ枠」を新設』/美術手帖
人事委員会の担当者はこう話しています。
”異なるスキルを持つ多様な人材が集まることで、価値観、ライフスタイルの多様化などの変化に対応し、行政にこれまでになかった新たな発想や手法を取り入れられることを期待しています”
多様性が求められる社会で必要なことは、いかに人と異なるか、異なることで化学変化(イノベーション)を起こせるかだと言われています。そうした経緯で、これまでとは違った人材が求められているのです。