「起業を目指す際、男性と女性の差はある?」起業家・大津愛さんインタビュー【前編】

インタビュー
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時代の変化とともに働き方やライフスタイルは多様化し、「女性は結婚したら専業主婦」というひと昔前のロールモデルは、ほとんど現実的でなくなっています。「自分のしたい仕事は何か」「一生続けられる仕事なのか」「ひとりでも生きていける収入を得られるのか」「あるいは独立や起業をするのか」……などについて考えることは、男性であろうと女性であろうと直面する悩みです。

主に低所得者やワーキングマザー向けの転職サービスを展開する『株式会社Compass』を2017年に兵庫県で起業された、大津愛さん。キャリアコンサルタントの資格を持つ彼女のもとには、「起業したい」という相談も多く寄せられるそうです。

前後編に分け、前編は「女性の起業について」、後編は「男女問わずこれから起業を目指す方へ伝えたいこと」にというテーマでお話を伺いました。

起業を目指す際、男性と女性の差はある?「体力」「情報」「時間」の問題

――今回は“起業”について、特に前半は“女性の起業”についてお話を伺いたいと思います。

「最近、女性向けの起業についての講演会に呼ばれることが多いんです。働き方が多様になったとは言え、起業となるとやはりまだ男性の方が多いのが現実です。その中で私が“女性起業家”という意味でも、“キャリアカウンセラー”という意味でも、話を聞いてみたいと呼んでいただけているのだと思います。もちろんその背景には、昔に比べ起業に興味を持つ女性が増えていることがあると思います」

――起業する場合、そこに性差というか、女性だからこそ難しいという点はあるのでしょうか?

「あります。まず、男女では体力が違います。しかしビジネスというのはスポーツのように男女別で競うものではありません。同業種のタフで体力のある男性起業家とも、同じように渡り合わなくてはいけません。次に、情報を得る機会が女性の方がまだまだ少ないのが現状です。講演会などに呼んでいただくと、そもそもフリーランスと起業の違いがよく分かっていない女性や、ベンチャー企業の基本的な仕組みが分かっていない女性が多い。セミナーなどでそうしたビジネスの基礎知識を学ぶ機会や、交流会で起業につながる人脈などを得る機会が、女性は男性に比べて少ないと思います」

――それは女性向けのセミナーなどが少ないことが原因でしょうか。

「それもありますが、“女性向け”と銘打っていない通常のセミナーなどは、やはり男性参加者の方が多い。そうなると女性は行きにくいことも多いですし、そもそも子育てなどがある場合は時間的に行けない場合も多いです」

――体力面、情報面、さらに子育てなどがある場合は時間面でも、男性とは差がついてしまうことが多いわけですね。

「体力は少ない男性もいれば多い女性もいるので、一概に大きな差とは言いにくいですが、情報面と時間面でのディスアドバンテージは大きいと思います」

起業のための知識や情報を得られる環境が女性は少ない?

――では順番に、情報面でのディスアドバンテージからお伺いしたいと思います。

「情報面の差があることによってよく起こるのが、男性は“起業=ビジネス”として考えられるのに、女性は“起業=商売”と考えてしまいがちになってしまうことです。何かしら起業のアイデアが浮かんだら、それがビジネスモデルとして実現可能かどうか、世の中に需要があるのか、既存の同業種や競合と勝負できるのか、そういったことを考えなくてはなりません。しかしそれらを全部自分で考えられるのはごく一部の人だけで、多くの人はすでに起業している社長や投資家の話を聞いたり読んだり勉強して、考える能力を高めていくんですね。そこで必要になるのがビジネスの知識や、セミナーで得られる情報、交流会での人脈などになるんです」

――なるほど、そこの情報面で差があると、“ビジネスとして現実味があるか”を精査できないんですね。

「そうです。厳しい言い方になってしまいますが、“自分でカフェを始めた○○さんから話を聞いた”くらいの情報で、“私も好きなことで起業しよう”と考えてしまう女性が多いんです。“こういうお店や商売がしたい”ではなく、“これはビジネスとして成功するか”を考えないといけないんです。まずは、そうした考え方ができるように知識や情報を得る機会を増やすことが重要だと思います」

女性こそ起業の際には“組織づくり”を重視してほしい

――続いて、時間的なディスアドバンテージについて、お話しいただけますでしょうか。

「子育てをされている女性の場合は、男性やそうでない女性の起業と比べると、どうしても時間面で難しくなると思います。外国ではシッターさんに頼んで仕事に集中することは珍しくありませんが、日本ではそういう環境があまり整っていませんし、周りの理解もなかなか得られない場合が多いです」

――確かに、夫が起業を目指していて妻が子育てや家事をしている、というのに比べ、その逆は日本では珍しい気がします。

「また、今独身の女性や子どもがいないという女性でも、起業した後に妊娠や出産、子育てを迎えるケースもありますし、当然その場合も時間面や体力面で厳しい状況になります」

――男性に比べて、ライフイベントが仕事に影響する割合が大きいということですね。

「その通りです。だから私は“女性こそ、起業する際には組織づくりを重視しよう”と言っています。例えば、自分が病気になって倒れたら会社も終わり、というのではビジネスとは言えません。規模の大小はともかく、自分がいなくても回る組織をつくることがビジネスですから。そうしたリスクヘッジは男女問わず考えなければいけませんが、女性の方がライフイベントに応じたリスクが大きいことを意識しないといけません。妊娠中や出産直後は当然仕事ができませんし、出産後も子育てで時間は確実に減ります。子どもが熱を出して、自分が駆け付けないといけない時だってあるわけです」

「女性は起業に向いていない」わけじゃない。ただし環境やリスクの違いを理解すること

――ここまでのまとめをさせていただきますね。起業に関して女性だからこそ気を付けるべき点があるとすれば、情報面でより積極的に知識などを得ようと意識すること、そして時間面ではライフイベントなども見据えて組織づくりを重視することが大切、とのお話でした。

「勘違いしてほしくないのですが、“女性だから起業に向いていない”と考える必要はありません。起業に向いた性格や性質はあるかもしれませんが、それは性差によって生まれるものではありません。起業向きの性格の女性もいれば、そうでない男性もいるでしょう。ただ、環境の面で女性は起業に関する情報や知識を得る機会が少なく、ライフイベントの面で男性に比べ時間的リスクが大きくなりやすいということです。それは性質の問題ではありません。それを理解した上で、その2点を意識いただくことが大切かと思います」

――ありがとうございます。後編では、女性のみならず、起業を目指す方みなさんに気を付けてほしいことについて、大津さんに伺いたいと思います。

後編は11月7日(水)に更新いたします。そちらもぜひご覧ください。

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