失業保険は、「働く意志があり、働ける状態にあるのにも関わらず働くことができない」人をサポートするための制度です。その趣旨から、失業保険では給付する対象の事情によって扱いに差があります。特に大きな差が、「会社都合退職」なのか「自己都合退職」なのか、という点です。
ここでは、それぞれがどのように扱われるのか、どのような違いがあるのか詳しくまとめていきましょう。
失業保険は会社都合の方が有利
失業保険を受けるためには、行政に失業した理由を申告しなければなりません。自分がどんな理由で退職したのか、正しく届け出る必要があります。その際の理由が「会社のせいで退職を余儀なくされたケース」なのか「自分がやっていけないと思って辞めたのか」で、失業保険の扱いが異なります。端的にいってしまえば、会社都合退職の方が求職者に有利です。
有利なポイントは大きくわけて4つあります。ひとつめのポイントは、失業保険が実際に手元に給付されるまでの時間が短いという点です。自己都合退職の場合、最短でも給付されるのは3カ月と7日後です。一方、会社都合退職の場合は、7日後すぐに給付が開始されます。ふたつめのポイントが、失業給付金が給付される日数が長いという点です。具体的な日数は給付対象者の年齢と前職の勤務日数によって異なりますが、最大日数でいえば自己都合退職は150日、会社都合退職は330日の期間、失業保険が給付されます。
給付日数の長さに伴って、最大支給額も異なります。自己都合退職の場合は最大およそ118万円であるのに対し、会社都合退職の場合は最大260万円もの額をうけとることが可能です。これが、会社都合退職が持つみっつめのメリットです。よっつめのメリットは、国民健康保険税が軽減されるかどうかという点です。会社都合退職の場合はその人の事情に応じて最長2年間の減額処置が取られますが、自己都合退職の場合はそうした制度はありません。
このように、会社都合退職は退職者側からすると非常に多くのメリットのある退職方法です。そのため、可能であるのなら退職の理由は会社都合退職にすべきでしょう。しかしながら、企業の方はなるべく自己都合退職を勧めてきます。場合によっては、会社による過失が明らかなのにも関わらず、会社都合退職を認めようとしません。
その理由は、自己都合退職で従業員が退職した場合、会社側に助成金が入るようになっているからです。会社都合退職の場合は助成金が入らないので、会社側はなるべく会社都合退職を避けようとします。そのため、企業側と退職者の間では、しばしば退職する理由をめぐってもめごとが起きるのです。
ただし、例外として会社都合退職と同様の扱いをしてもらえる自己都合退職の理由もあります。これは「特定理由離職者」として扱われ、自己都合退職であっても特殊な待遇が約束されています。
具体的な理由は「家庭状況の急変(親の死亡など)」「家族への看護や介護を行わざるを得ない場合」「通勤が難しくなった場合(往復の通勤時間が4時間以上)」「医者の判断による退職」の4つです。他にも「特定理由離職者」として扱われる理由はありますが、それが認められるかどうかはハローワークの判断に依存するので、ハローワークに相談しましょう。
失業保険をもらうための「会社都合退職」とは?
退職者が退職を考える場合、出来る限り会社都合退職をした方が良いというのは先述した通りです。では、具体的に「会社都合退職」として認められるのはどのような理由の退職なのでしょうか。以下では、具体的にありうるパターンを列挙し、それぞれについて詳しく解説していきましょう。
業績悪化によるリストラ
会社が業績悪化してしまい、リストラせざるを得なくなった場合は「会社都合退職」として扱われます。なぜなら、会社の業績が悪化するのは会社員の問題ではなく、経営陣の判断ミスだからです。似たような事情で、会社が倒産してしまって職業がなくなってしまった方も会社都合退職として扱われます。
ただし、希望退職者を募った際に自分から退職を申し込んだ場合は、自己都合退職になるので気を付けましょう。業績の悪化によって会社都合退職が認められるのは、あくまでも会社から解雇を宣告された場合のみです。
ハラスメントなどによる精神的負担による退職
先述したように、自分から退職を申し入れた場合、基本的には「自己都合退職」として扱われます。しかし、会社側の過失が明らかな場合は、自分から退職を申し入れた場合でも会社都合退職として扱われることがあります。日常的なハラスメントが行われていることを把握しつつも、有効な再発防止策を取らなかった場合や、その意見を黙殺しようとした場合などは「会社都合退職」として扱われます。
行き過ぎた労働による過労
基準を超えた残業が恒常化していたり、時間外労働の隠蔽が認められたりした場合も会社都合退職になります。特にこうした長時間労働が当たり前になり、このままでは労働者の健康を著しく害する可能性がある場合は、会社都合での退職が可能です。
時間外労働があまりにも長い場合は法的措置も検討されるため、企業と労働者のお互いの都合が大きくすれ違うことが多い傾向にあります。そのため、この理由による会社都合退職を考えている場合は、間違いなくその時間働いていた証拠を確保してから退職したほうがいいでしょう。場合によっては、裁判による調停も考えられるからです。
会社側が会社都合退職を認めなくとも後から変更できる可能性も
一度自己都合退職で退職してしまった場合も、ハローワークで所定の手続きを踏むことにより、会社都合退職に変更できる可能性があります。ただし、そのためには「自己都合として申告した退職が、本来は会社都合退職によって処理すべきものだった」という証拠が必要です。
例えば、長時間労働の証拠、自己都合退職を強制された録音データなどです。自分での証明が難しい場合は、弁護士など法律に詳しい人に相談しましょう。
会社都合で退職し失業保険を早く貰うためのステップ
会社都合で退職するためには、まずは上司に対する相談からはじめましょう。ただ、上司自体が退職の理由であるという場合は、上司を管轄している上の立場の人に相談してください。なぜなら、相談なしに退職手続きを進めてしまうと、会社都合退職が認められないことが多いからです。まずは会社への影響力がある人に、「こういう理由で退職を考えている」ということを打ち明けましょう。
この相談に対して、会社が何らかの対応策を応じてくるようであれば、一度退職を引っ込めてください。もし、どうしても今すぐに退職したいのであれば、会社都合退職ではなく自己都合退職で退職しましょう。ここで打ち出された対応策が全く意味のないものだったり、実質的な問題は何も変わっていない場合は、いよいよ退職のステップに乗り出します。
退職のステップは、なるべく引継ぎを終わらせてから行いましょう。ただ、著しく健康を害する場合、このままだと精神的に大きな負担がかかる場合などは別です。医者からの診断書を持って、それを理由に退職しましょう。
退職ができたら、あとはハローワークで手続きをするだけです。失業保険をもらう条件を満たせていれば、7日後に失業保険の給付がはじまります。
まとめ
失業保険は、会社都合退職か自己都合退職かで待遇が違います。特に大きく違うのは、支給額と支給されるまでの期間でしょう。ほとんどの場合で、会社都合退職にしたほうが何かと有利です。そのため、退職をする際はなるべく会社都合退職ができるように心がけた方がいいでしょう。
しかし、退職の問題がどこにあるのかで、会社側と衝突してしまうこともあります。その場合は、ハローワークをはじめ、専門家との相談を考えてください。