貧しいのは私のせい?自己責任論は貧困を悪化させる

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 貧困の連鎖

日本でどれだけの子供たちが貧困状態に陥っているか知っていますか?

※貧困状態とは、親子2人世帯の場合は月額およそ14万円以下で生活していることを指します。

日本では全体の7人に1人もの子どもたち、およそ280万人が貧困状態にある。貧困は世代間で連鎖すると言われている。貧困により学力不足を引き起こし精神的に未成熟なまま大人になってしまう場合もある」(厚生労働省「平成28年国民生活基礎調査」より)

7人に1人ということは、30人クラスのうちに、約4人は貧困状態の子供がいるということです。OECD加盟国と比べても平均以上と、貧困率が高い日本。

ただ、最近はその貧困がなかなか目に見えにくかったりします。ひと昔前は、体育の授業がない日なども毎日のように、着古した体操着を着てきたりする様子から何らかのシグナルは読み取れたものです。

しかし、最近はユニクロなどファストファッションが普及したおかげで、それなりの品質の洋服を格安で入手できるようになったため、外見によって貧困やネグレクトを判断・推測することが難しくなってきています。

したがって、もしあなたが身の回りを見て、貧困なんてどこにあるの?と思っていたのだとしたら、それは以前よりも貧困が見えにくくなっただけかもしれません。

また貧困が深刻である理由は、冒頭の厚労省の指摘にもある通り、貧困が連鎖してしまうという特徴があるためでもあります。お金がないために、子どもに塾や習い事にいかせることができず十分な教育を受けさせることができない。お金がないために、大学にいかせてあげることができない。経済的格差がそのまま教育格差につながってしまうということです。

このように教育を受けられないがために、貧しい子供が大人になった時に、同じように貧困に陥ってしまうということはよくある話です。

日本に広がる自己責任論

そして昨今、よく耳にする自己責任論。これは、輪をかけるように貧困問題を深刻化させる要因となっています。

この場合の自己責任論とは、貧困で苦しんでいる人は、努力や能力が足りないからだ、と一蹴してしまうこと。要は、貧しいのは自分自身のせいだという考え方です。

自己責任論は所得水準の高い人に多いと言われています。自分で事業を達成したりエリート企業で働いていると、「自分一人の力でここまでのしあがってきた」「自分の頑張りのおかげで財産を築けた」と思いがちです。これがエスカレートすると、「貧しいのは、頑張りや努力が足りないからだ」と自己責任論を持ち出したり「自分で築いた財産を、税金として頑張らない怠惰な人へ持っていかれたくない」と所得再配分に否定的な意見を持ち出したりするようになります。

実際は、貧しい人は頑張らないのではなく、頑張れない事情があったり、頑張っても報われない環境にいたりするのですが・・・そこまで思いを馳せられる人は少ないのかもしれません。

こうして出来上がっていくエリート層の自己責任論に対し、鋭く警鐘を鳴らしたのが東京大学名誉教授の上野千鶴子さんです。上野さんは2019年4月の同大学入学式での祝辞にて、日本一のエリート大学生へ向け以下のようなメッセージを伝えています。

あなたたちが今日「がんばったら報われる」と思えるのは、これまであなたたちの周囲の環境が、あなたたちを励まし、背を押し、手を持ってひきあげ、やりとげたことを評価してほめてくれたからこそです。世の中には、がんばっても報われないひと、がんばろうにもがんばれないひと、がんばりすぎて心と体をこわしたひと…たちがいます。がんばる前から、「しょせんおまえなんか」「どうせわたしなんて」とがんばる意欲をくじかれるひとたちもいます。

あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれないひとびとを貶めるためにではなく、そういうひとびとを助けるために使ってください。

上野さんは、あなたがたがこの場(東京大学の入学式)にいられるのは、あなた自身の能力や頑張りだけはないことに気付いて欲しかったのだと思います。もっと直接的に言うなら、自分がエリートになれたのは、親の経済力や教育があったからこそだということを示そうとしたのかもしれません。

実際、東大生の親の世帯年収を見ると、約60%が年収950万円以上と高い数字を誇っています。(Newsweek日本版『東大生の親の6割以上は年収950万円以上』より)

一方で、気になるのは、貧困に陥っている人も同じように自己責任を感じている人が一定数いるということです。

例えば、「自分が貧しいのは、仕事を長く続けられない自分が悪い」。「収入0でも生活保護や親に頼りたくない」など。これらも一種の自己責任論です。貧困層の人も、自己責任論を認めてしまっています。

どうして恵まれない環境にいる人も、自己責任論を受け入れてしまうのか。最近、その理由について明快に説明しているツイートがありました。

昨今は誰かの力を頼ることがはばかれる空気があるのは事実かと思います。自分で一人でなんとか生きていくしかない、と半ば諦めに似たような形で自己責任を引き受けている人が多いのだと思います。彼らは誰かに迷惑をかけたくない、厄介者になりたくない、と必要以上に思いすぎているのかもしれません。

でも、公的な制度を頼ることは悪いことではありません。当然の権利でもあり、制度自体、必要としている人たちのためにあります。

役所はまだしも、「家族や友人には助けを求めにくい」という人もいるかもしれません。でも、助けを求めるというのは信頼の証でもあるので、もしかしたら相手も嬉しく思ってくれることもあるかもしれません。

確かにいきなり「お金を貸してくれ」とは言いづらかったり、角が立ってしまうと思います。であれば、何か具体的な支援を求めるというよりかは、率直に今の悩みを他者に打ち明けてみるといいかもしれません。助けを求めるというのは、金銭的な支援などだけではありません。仕事がなくて悩んでいるのなら、企業の選び方や履歴書の書き方などを聞いてみるのもいいかもしれません。こうしたアドバイスも立派な助けと言えるでしょう。

そして、そこで得た恩を当人はもちろん他の誰かに返すこと。誰かからもらった優しさを、他の誰かにも与えていくこと。よくいくコンビニの店員さんに、いつもお疲れ様です、と声をかけることも立派な他の誰かへの恩返しです。個人から与えられた恩を、社会に返していくこと。こうやって草の根運動的に人に優しい社会へと少しづつ変えていくことが大切です。

最後に、所得水準の高い人は、自己責任論を唱えがちですが、実はそれは彼ら本人たちにとっても良くありません。このコロナ禍によって大手企業でも倒産・大幅赤字に見舞われています。明日は我が身です。弱者の立場になった時に、受け入れられる社会保障制度や他者を頼れる雰囲気を作り出す=他者に優しくあれる社会は、結局は自分のためにもなります。こうしたセーフティネットが張り巡らされている社会だからこそ、私たちは挑戦できるからです。

 記事のおさらい

・日本の子供の7人に1人は貧困

・貧困=経済格差が教育格差を生む

・それにより貧困が、親から子世代へ連鎖してしまう

・自己責任論が貧困問題をよりいっそう深刻にする

・誰かに助けを求められる空気を作り出していくことが大切

・人に優しくなれる社会は、貧困層にとっても中産階級以上の人にとっても良い

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