「なぜ、あなたはいつまでも変われないのか?」
「なぜ、あなたは劣等感を克服できないのか?」
「なぜ、あなたは他人の人生を生きてしまうのか?」
2013年に出版されじわじわと人気を集めついにはベストセラーまでなった『嫌われる勇気』の帯に書かれた言葉です。私たちは自由に自分の人生を生きたいという欲望をどこかに持っています。でも、それを実現するのは、生半可なものではありません。
この本は、私たちと同じように理想と現実の間で苦悩する青年と、それに応える哲人の対話の物語です。
心理学の三大巨頭のうちの一人アルフレッド・アドラーの考えをもとに、哲人は青年のモヤモヤとした悩みに対し、的確で明快な言葉でずばずばと切り込んでいきます。
例えば、青年はこう悩みを打ち明けます。なぜ自分が生きているこの世界は、こんなにも矛盾にあふれているのか?と。
学校で教えられたことと、社会人になって教えられたことの矛盾。先輩社員の言うことが昨日と今日で変わっていること。悩みを抱えていると、世界がどんどん矛盾に満ち溢れたもののように見えてきます。
それに対し、哲人はこう言い放ちます。
「それは「世界」が複雑なのではなく、ひとえに「あなた」が世界を複雑なものとしているのです。(中略)いま、あなたの目には世界が複雑怪奇な混沌として映っている。しかし、あなた自身が変われば、世界はシンプルな姿を取り戻します。問題は世界がどうあるかではなく、あなたがどうであるか、なのです」
哲人は、客観的な世界ではなく、主観的な個人に重きを置きます。世界がどうであろうと、あなた次第でその世界の見え方は異なるし幸せになることができる、と。
世界は変えられないけど、自分は変えられるという考え方です。でも、どうすれば自分を変えることができるのでしょうか。
今回は、本書を参考にその方法について紹介していきます。
嫌われる勇気を持つ
人間が持つ代表的な欲求の一つに数えられる承認欲求。他者から褒められたりすることで、私たちは「自分には価値がある」と実感することができます。承認欲求があるため、私たちはなるべく嫌われたくないと望みます。
しかし、アドラー心理学はこの承認欲求を否定します。なぜなら、他人に褒めてもらうために生きるということは、他人の人生を生きることにつながってしまうためです。個人心理学と称されるように、あくまで個人(自分)を重要視するのです。
またアドラー心理学は、「課題の分離」を徹底します。例えば、人から嫌われるのは、誰の課題(責任)なのか?と切り分けるのです。あなたが嫌われるのは、あなたの課題なのか?それとも相手の課題なのか?自責的な傾向が強い人ほど、「自分が悪いのだ」と自己否定に陥りがちです。しかし、アドラー心理学は、あなたが嫌われるのは、あなたの課題ではなく、相手の課題だと捉えます。より簡単にいうならば、嫌われるあなたが悪いのではなく、あなたのことを嫌う相手が悪い(というか他人の課題)という考え方です。
したがって、他人からの評価をあれこれ悩んでもしょうがありません。他人からどう思われようと、あなたにはどうにでもできないことだと認識することが大切です。他人があなたをどう思うかは(あなたではなく)他人の課題です。
哲人は言います。われわれは「他者の期待を満たすために生きているのでない」のです。
原因ではなく目的を大事にする
自分に自信がない状況だと、何事もマイナス思考になってしまい、一歩を踏み出す勇気がなかなか沸いてきません。例えば、転職を考えても、「自分には経験やスキルがないからどうせ無理だ」と思い込んでしまう。
アドラー心理学と真逆の考え方が、原因論的な考え方です。例えば、自分は、背が低いからバスケットボール選手にはなれないなど、原因(=背が低い)によって必然的に結果(バスケット選手にはなれない)が引き起こされるという考え方です。これでは、生まれたときから自分の人生が決まっているようなものです。
アドラー心理学はそうではありません。自分がどのような性質を持って生まれてこようと、自分の思うような人生を送られることができるという考え方です。原因よりも目的を重視する考え方なので、あなたが意思を持てば自分自身を変えられます。
アドラー心理学は言い訳に手厳しい
原因よりも目的を重視するアドラー心理学は、生きる希望を与えてくれます。しかし、目的が第一なので、言い訳には手厳しくもあります。
あなたが経験やスキルがないから望みの会社へ転職できない、という先ほどの例について、再度取り上げてみます。
こうした原因論的な言い訳に対し、アドラー心理学は以下のように辛辣な言葉を浴びせます。
「「経験やスキルがないから、どうせ自分には転職は無理だ」と言うのは、むしろあなたが「転職したくない」と望んでいるからだ」
あなたは転職活動をしないことによって、本気で頑張れば転職できるかもしれないという望みやプライドを守るために、最初から諦めようとしているのかもしれません。あるいは、失敗することで、周囲のがっかりする顔を見たくないから一歩を踏み出さないのかもしれません。
何度も言いますが、アドラー心理学は目的を重視します。目的が先にあり、その次に行動が伴われるという考え方。例えば、哲人は、喫茶店でウェイターにコーヒーをこぼされ、大声で怒ってしまった青年に対しこう話します。
「あなた(青年)は「怒りに駆られて、大声を出した」のではない。ひとえに「大声を出すために、怒った」のです。(中略)あなたには大声を出す、という目的が先にあった。すなわち、大声を出すことによって、ミスを犯したウェイターを屈服させ、自分のいうことをきかせたかった。その手段として、怒りという感情を捏造したのです。」
目的(ウェイターを屈服したい)が先にあり、行動(怒る)という順番です。転職を諦めるという例に戻れば、目的(やればできる自分という可能性を残しておきたい)が先にあり、行動(転職しない)ということです。
転職できない理由をあれこれ探しているうちは、あなたはむしろ現状に満足しているのだと言えるのかもしれません
過去は変えられないが、その意味付けは後からでも変えられる
長い間生きていれば、否定したくなるような過去の体験の1つや2つはあるかと思います。人間はそうした経験によって、自分の人格なりが形成されていくとも考えられます。例えば、自分は過去にいじめられた経験があるから、大人になった今でも自信がなくもじもじしている性格になってしまったと感じているかもしれません。
過去に起きたことは、もちろん変えることはできません。でも、その体験が自分にとってどのような意味を持つかは、変えることができます。いじめ体験にしても、それによってあなたは「いじめられる弱者側の気持ちを分かるようになった」というポジティブな意味付けもできるかもしれません。こうやっていじめの経験を、後から塗り替えることができます。
最後に
筆者が5年前この本を読んだ時に、哲人から出てくる言葉の一つ一つが目から鱗すぎて、とても驚いたことを今でも覚えています。中でも、嫌われるのは、あなたのせいではなく相手の課題という考え方は、天地が逆転するような気がしました。こうした考え方を、自分の頭の中に入れておくだけも、心がすっと軽くすることができます。興味を持たれた方は、ぜひ本書を読んでみてください。